マンション建設が停滞、耐震二重チェックの義務付け

 ◇大阪、建築確認が昨年同期の2・5%に減少

 耐震強度偽装事件を教訓に審査を厳格化した改正建築基準法の施行3か月で、構造計算の二重チェック「適合性判定(適判)」を義務づけた中高層マンションなどの建築確認件数が、大阪府内で昨年同期の2・5%に激減し、東京都内では1%未満になることが分かった。事前相談を含め約1か月で済んだ審査に3倍以上かかり、マンションの販売予定が大幅に遅れるなど影響が広がっている。

 改正法の特徴は、高さ20メートル超の鉄筋コンクリート造りなどを対象に知事指定の適判機関で二重チェックするのに加え、計算ミスの修正やドアの位置の変更も認めず、再申請させる厳格さにある。

 建築主らが申請に慎重になっていることもあって、6月20日の改正法施行から9月20日の間に、府内では、自治体などでの審査を経て適判機関に回ってきたのは151件で、そのうち確認が下りたのは31件。府の推計では昨年同期、対象物件の確認件数は約1250件で、40分の1になった。同様に東京都内では、昨年同期の約2500件が改正後は10件程度にとどまる見込み。

 大阪府建築指導室も「法律でがんじがらめで、柔軟な運用は難しい」とする。「厳し過ぎて採算に合わない」と、構造設計業務を取りやめる建築士もおり、業界団体は国土交通省に、安全性に影響しない設計変更や修正は認めるなど審査の円滑化を要望。これを受け、同省は先月、各地で説明会を開いたほか、専用の相談窓口も設けた。

 大阪市内にある業界大手の設計会社は、改正後、全国で適判対象約20件を申請したが、これまでに確認が下りたのは1件だけ。「書類に少しでも不備があると修正、追加を厳しく求められ、審査に従来の3、4倍の手間がかかる」とする。神戸市内の住宅販売会社社長は「8月から事前相談しているマンションの申請が受理されない。着工は年内も微妙で、販売開始のメドが立たない」と嘆く。

 福祉施設も例外ではない。大阪府内の介護付き有料老人ホーム(約80床)は、審査が8月上旬から続いたままで、来年3月の入居予定は大幅に遅れそう。事業者によると、高齢者を抱える家族らが「募集はいつ始まるのか」と度々問い合わせてきているという。

 国の「構造計算書偽装問題に関する緊急調査委」で座長を務めた巽和夫京大名誉教授は「改正は安全・安心を担保するが、『羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く』厳格さ。申請側、審査側双方が慣れない上に仕事量が増えたのだから、国は一層、円滑化に心を砕くべきだろう」と話している。
(2007年10月4日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20071004p202.htm