耐震偽装 札幌市、浅沼元建築士の告発断念 物証得られず道、小樽市も見送り  2006/09/17 06:50

 札幌の浅沼良一・元二級建築士(48)による耐震強度偽装問題で、札幌市は十六日、浅沼元建築士刑事告発を断念することを決めた。市は、建物の構造を安全にする義務を定めた建築基準法に違反するとして、告発を検討してきたが、違法性を立証できる「物証」がないことなどから、告発しても捜査当局による立件は困難と判断した。

 浅沼元建築士の告発については、札幌市と同様、偽装物件を建築確認した道と小樽市も見送る方針で、元建築士が刑事責任を問われる可能性はほぼなくなった。

 札幌市は三月の偽装問題発覚後、浅沼元建築士が構造計算に関与した市内の建物八十六棟について耐震強度を再計算し、六月末までにマンション三十二棟でデータの改ざんなどの偽装や不適正な計算を確認。このうち、二十一棟が国の耐震基準の一・○を下回った。

 市は当初、市民の生命を脅かしたとして、建築基準法違反容疑で告発することを前向きに検討。しかし、浅沼元建築士の偽装物件には、震度5強地震で倒壊の恐れがあり、解体が必要な○・五未満の建物がなかった。このため、解体して建物内部を調べることができず、仮に告発しても、偽装された構造計算書によって実際に鉄筋を減らしたかどうかなどの物証を得るのが難しいという。

 また、浅沼元建築士は元請けの一級建築士から発注を受けて構造計算を行っており、書類上の責任者が元請けであることも、告発の障害となった。同市幹部は「告発の可能性を探ってきたが、壁があった」と話す。

 一方、道は「浅沼元建築士一級建築士の(監督下にある)設計補助者であり、建築基準法建築士法の違反を問うのは難しい」(建築指導課)と判断。小樽市も「故意に偽装したと証明できないため、告発は考えていない」と説明している。

 この問題では、道が七月二十日、建築士法の「不誠実な行為」に当たるとして、浅沼元建築士建築士免許を取り消した。元建築士に構造計算を下請け発注した一級建築士の処分も行われ、国土交通省は札幌の一級建築士の免許を取り消し、札幌と苫小牧の一級建築士五人を一−九カ月の業務停止としている。
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20060917&j=0022&k=200609172274