札幌の耐震強度偽装、4棟が耐震基準下回る

2006年03月20日22時57分

 浅沼良一2級建築士による札幌市の耐震強度偽装問題で、4棟のマンションの耐震強度が基準の1を下回っていることがわかった。市内では別の設計業者の物件でも構造計算の改ざんが発覚し、元請け設計業者が下請けの偽装を見抜けない実態と、後手に回る行政の対応が次々と明らかになっている。

 浅沼建築士が偽装した建物は33棟に上るとされる。札幌市はこのうち6棟について再計算を専門家に依頼。5棟で偽装が確認され、4棟は強度が足りず、基準を最高で2割余り下回っていた。

 「数値は操作したが、強度は十分ある」と浅沼建築士は記者会見で繰り返し、「耐震壁(梁(はり)と柱などとともに建物を支える壁)を多用すれば強度が上がる」と主張した。

 だが、市の幹部は「本人が言うようにして耐震壁を理論的に多用した跡はなく、漫然と配置されているだけ。完全な技術、知識不足だ」と話す。残りの偽装物件27棟の再調査を今後進める。

 道は浅沼建築士に構造計算を委託した九つの元請け設計業者から事情聴取した。

 1級建築士が監督・指導すれば、構造計算の実務は免許がなくても行うことができる。だが、元請けの中には「浅沼建築士の免許を確認していなかった」と話す業者もいたという。

 ある元請け業者は朝日新聞の取材に「姉歯秀次建築士の偽装が発覚する前は、下請けの免許をいちいち確認しろとは誰も言わなかった」と明かす。別の業者も「下請けの仕事を再計算で検証すれば1カ月以上かかる。それでは外注する意味がない」と話した。

 浅沼建築士自身、「元請けから偽装の指示はなかった」と話す一方、「間違っているという指摘もなかった」と語っている。耐震構造に詳しい石山祐二・北海道大名誉教授は「アルバイトが構造計算しても、わからない仕組みになっている」と問題点を指摘する。

 行政の対応も後手後手だ。昨年11月、姉歯建築士の偽装発覚の際、札幌市は「二重にチェックしており、偽装はあり得ない」としていた。

 建築基準法は札幌市、建築士法は北海道と、札幌市内の偽装物件は法律によって調査する役所が違う。市は建物の強度が基準を満たすかどうかに調査の主眼を置き、道は建築士の資格や元請けと下請けの指示・監督の関係などに着目する。

 札幌市では埼玉県にある設計事務所による構造計算書のデータ改ざんも発覚した。市は強度が基準を満たしているとして「建築基準法上の違法性はない」と早いうちに結論づけたが、建築士法に照らした場合の違法性の検討はこれからだ。相次ぐ偽装について市と道は今後、刑事告発するかどうかの検討に入る。
http://www.asahi.com/national/update/0320/TKY200603200387.html