耐震強度も計算次第?

3種類の計算方法で混乱
 国土交通省が六年前から建築物の耐震強度を判定する構造計算方法を新たに三種類認め、その結果、計算方法によって強度の数値に相当なばらつきが出ていることが分かった。耐震強度偽装事件では、各自治体はこの数値をもとに建物の改修や建て替えなどを判断しており、採用する計算方法によって自治体や住民らが混乱する可能性も出てきた。

 構造計算方法は従来、旧計算法の「許容応力度等計算」だけだったが、国交省は二〇〇〇年以降に、計三種の精密な新計算法を新たに認めた。同省は「計算方法で強度はさほどばらつかない」とみていた。

 ところが、姉歯秀次・元一級建築士が構造計算書を偽造した東京都新宿区のマンションで、三種類のうち地盤の状態などを精査する新計算法「限界耐力計算」で再計算すると、改修対象となる0・85だった最低強度が約1・2になった。強度不足とされた建物が安全な建物に“変身”した形だが、同区は「固い地盤を考慮し、強度が増した」とし、改修不要と判断した。

 一連の偽装への統一指針として、同省は建築基準法の最低強度を「1」とし、「0・5未満」を原則取り壊し、「0・5以上1未満」を原則改修としている。立地条件で各種の前提条件も異なるが、新宿区で増えた強度幅0・3以上を単純に当てはめると、強度が0・7前後以上と判定された改修対象物件が再計算次第では「改修不要」となる可能性がある。

 国交省の調べでは、強度偽装が確認された一連のマンションやホテルなど百五棟はすべて、強度が低く算出される傾向がある旧計算法による計算と判明。これらを新たな計算法で再計算すれば、強度値が上がって改修不要の安全な建物となる可能性があるという。

 しかし、同省は「旧計算法は強度の数値が低く出る傾向があるが、統計的に旧計算法で強度が0・5未満だと、震度5強で倒壊の恐れがある」とし、新計算法の結果にかかわらず「旧計算法で強度0・5未満は、原則取り壊し・建て替え」との指針を当面続ける。「新計算法は旧計算法より正確だが、建築士の裁量範囲も大きい。悪用して意図的に強度を増やせる面もある」からだという。

 計算方法の違いで生じる強度のばらつきを定量分析した統計はない。このため同省は、新旧二種の計算法で同一物件の強度を計算、比較するサンプル調査を実施。極度のばらつきが出ると確認されれば、新計算法による構造計算で建築確認する際、強度が低い物件は旧計算法で再計算するなどの対応を考える。
http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20060313/eve_____sya_____009.shtml