耐震偽装「構造的詐欺」崩れる

姉歯被告の個人犯罪断定
 元1級建築士姉歯秀次被告(49)が、議院証言法違反の疑いで再逮捕され、幕引きを迎える耐震強度偽装事件は、同被告の最初の偽装について、警察から指摘されるまで東京・中央区が気付かなかったという検査体制のずさんさも明らかにした。

 住まいの安全を担う建築士背信をだれが、どうチェックすればいいのか。捜査終盤に浮上した偽証容疑は、事件の“原点”とも言える課題を改めて問い掛けている。

建築行政ずさんさ露呈
 「耐震強度がそんなに低いなんてあり得ない」

 今月14日、警視庁から突然の連絡を受けた中央区都市整備部の担当者たちは、驚きの声をあげていた。

 姉歯被告が1996年12月に構造計算をした同区の分譲マンション「ゼファー月島」について、姉歯被告が「構造計算書を改ざんした」と供述し、強度が基準の6割程度しかないと伝えられたからだ。

 同マンションの建築確認をした区は、一連の偽装が表面化した直後の昨年12月、「施工業者が強度を再計算し、『問題なし』との結論を得た」として、偽装はないと国土交通省に報告していた。

 しかし姉歯被告は構造計算書の改ざん個所を具体的に供述しており、区が調べ直したところ、翌15日には明らかに異常な数値が見つかった。さらに、国交省への報告とは裏腹に、再計算が行われていなかったことまで判明した。

 区幹部は「現段階では、区が業者に再計算を依頼しなかった疑いもあるとしか言えない」と言葉少なだ。

 姉歯被告が構造計算を手掛けたマンションやホテルは計205件。偽装が明らかになっているのは、ゼファー月島も含め99件で、民間の複数の指定確認検査機関だけでなく、計28の自治体が偽装を見逃していた。

 こうした事態を受け、建築基準法など関連4法の改正案が今月、成立し、偽装の有無を審査する判定機関の新設が決まった。

 一連の捜査でも、施工、販売、検査の各段階の関係者の刑事責任の追及が進み、「木村建設」(熊本県八代市)の建設業法違反事件や、「イーホームズ」(新宿区)の架空増資事件では、会社の業績や規模を実態以上に見せかけていたことが、大量の偽装物件を生んだ背景にあることをえぐり出した。また「ヒューザー」(大田区)や木村建設については、偽装の事実を伝えずに物件を販売するなどした行為を詐欺罪として立件した。

 一方、偽装ホテルの開業を指導していた「総合経営研究所」(千代田区)を巡っては詐欺罪の共犯の可能性を探ったが、コンサルタントという立場では、顧客を直接だましたとは言えないとして立件を断念した。

 設計や施工、検査、そして経営指導の各関係者が絡んだ「構造的詐欺」。捜査が進むにつれ、当初、捜査本部が描いた事件の構図は崩れ、偽装は、姉歯被告の個人犯罪と断定せざるを得なかった。

 捜査にあたった警察幹部はこう振り返る。

 「姉歯被告が売り物にした格安の構造計算に、建設会社やコンサルタントの『経済設計』の思想が重なって被害が拡大したのが事件の本質。偽装を長年、見抜けなかった建築行政の不備が一番の問題ではないか」

(2006年6月23日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/homeguide/news/20060623hg01.htm