新宿の姉歯物件、強度不足が一転「安全」 新構造計算で

2006年03月07日08時21分

 姉歯秀次建築士の偽装により耐震強度が足りないとされた東京都新宿区のマンションが、新しい構造計算法である「限界耐力計算」で計算し直したところ、今度は一転して「安全」とされたことがわかった。この計算法も建築基準法に基づく正規の計算法だが、建物の揺れ方など設定する条件によっては従来の「許容応力度等計算」より大幅に高い強度が出る可能性があると指摘されている。同じ建物なのに計算法で強度が大きく違ったことになり、同様の例が増えれば、強度の値で線引きする公的支援の仕組みが揺らぎかねない。

 このマンションは投資用の分譲マンションで、新宿区の調査で昨年12月、建物の一部で強度が1を基準とした場合の0.85しかないと判定された。姉歯建築士が構造計算したことがわかり、姉歯建築士が使ったのと同じ従来の計算法で調べた結果、偽装による強度不足が明らかになった。

 建築主が新宿区と対応策を話し合う中で、新計算法で計算し直す案が浮上。設計事務所に頼んで計算したところ、強度は1を超えるという結果が出た。新宿区が行った耐震診断でも問題はなく、同区は安全が確認されたと判断した。

 0.85のままだった場合は建築基準法違反となり、補強工事をしなければならないが、建築主は改修しないで済んだ。

 限界耐力計算は00年から使えるようになった。国交省は2月15日、耐震偽装問題について「技術的助言」を出し、強度の検証手順などを示した。この計算法で強度を調べる場合の手順もこの中で明示している。

 偽装物件が安全かどうかは自治体が最終的に判断する。新しい計算法で強度が基準を満たし、自治体が安全だと判断すれば補強しなくてもいい。自治体は判断に際し、日本建築防災協会の助言を受けることができる。

 強度1は震度6強の大地震でも建物が倒壊しない強さを示す。偽装問題をめぐる国の支援策は、分譲マンションは強度0.5未満が建て替えの対象で、0.5以上1未満は改修費用の一部を助成する。ホテルや賃貸マンションについては強度にかかわりなく公的支援の適用例はない。

 新宿区の例のように、建て替えや改修で重い費用負担を迫られているマンションの住民やホテル経営者らが新しい計算法で計算し直し、基準を満たす強度が出ることは他でも起こり得る。ある自治体の担当者は「同じ建物なのに計算法で結果が大きく違えば、収拾がつかなくなるのではないか」と口にする。

 国交省は「計算結果が大きく食い違う場合こそ、安全性を判断するためには専門家の助言が必要になるだろう。ただ、元の強度が著しく低い場合は別の計算法で数値が上がったとしても、安全だと判断されるとは限らないのではないか」としている。
http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY200603060334.html